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【書評】

羽入辰郎著『マックス・ヴェーバーの犯罪 ――『倫理』論文における資料操作の詐術と「知的誠実性」の崩壊――』

ミネルヴァ書房2002.9.30.

 

ヴェーバーの『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』を文献学的考証の拷問にかけた本書は、学問の父ヴェーバーに挑んだ労作である。

なるほどプロテスタンティズムの倫理がルターのドイツ語訳聖書の一部「ベン・シラの知恵」における「職業」概念に淵源するとしても、それが英訳に影響を与えたとするヴェーバーの論証には不備がある。またルター訳聖書の一部「コリントT」には「職業」(ベルーフ)という言葉が見られない以上、それが同訳の「ベン・シラの知恵」に影響を与えたとする仮説も成り立たない。ヴェーバーは当時の「普及版ルター聖書」に依拠した結果、その校訂過程を無視した杜撰な論証を行った、というのが著者の判定である。

はたして以上のような批判がヴェーバーを「倒した」ことになるのかは疑問であるが、巨人ヴェーバーを追い詰めるその冒険は、父権に抗する学的快楽に満ちている。

橋本努(北海道大助教授)